そして遠くて近い国パラオへ 2

 仁川発パラオ行きの出発時刻は22時過ぎ、到着は4時間半後になっています。事前に調べたところ、台北経由、グアム経由ともパラオ・コロール国際空港着は午前2時から4時台になっています。さらに、パラオ発もそれらの時間帯に集中しています。いずれも深夜早朝帯の発着なのは何か理由があるのでしょうか。
 搭乗開始は遅れもなく順調に進みましたが、関空-仁川間就航機に比べ一回り小型の機体です。飛行時間は倍以上長いけれど、乗客数が少ないのでローカル線扱いになるのは仕方ないですね。とはいえ機内はほぼ満席、やはり韓国人が一番多く、時折中国語が聞こえ、白人の姿もちらほら。
 同行のM君と隣り合わせの通路側の席に着きましたが、彼は仮眠を取りますからと窓側の席を譲ってくれました。私の方はといえば座ったまま寝ることができないほうなので、窓側でなければ時間つぶしにとナンプレ本を忍ばせていました。離陸とともに窓外に広がる韓国の夜景を眺めているのは私ぐらいか・・・お上りさん気分です。
 しばらくすると海に出たのでしょう、眼下は真っ暗です。でもすぐにまた九州の街明かりが見えてきました。それもしばらくの間だけでまた真っ暗になりました。ようやく太平洋に出たようです。照明を落とした機内の薄暗がりでナンプレを始めましたが、それにも疲れふと窓の外を見ると平行目線よりも高いところに見慣れた星の並びが見えます。プレアデス星団、和名すばるです。上空大気のフィルターが薄いうえ、光害もないので明るくはっきり見えています。ほかにも見えないか、小さな窓に顔をつけて周囲を見渡すと、アルデバランとヒアデスも。
 星探しに疲れてしばし目を閉じ、ナンプレを少しやり、また窓の外を見る、そんなことを繰り返していると、眼下に明かりが見えてきて、やがて機内アナウンスがあり、ついにパラオに着いたようです。
 コロール空港は国際空港とはいっても国の規模が小さく人口も少ないので、鹿児島の屋久島空港に近い規模のローカル空港という印象です。機外に出ると南国の暑い外気のお出迎え。20歳のころ社員旅行で連れて行ってもらったタイのバンコクを思い出しました。あの時も2月の冬の日本を出発してのことで、機外に出るとムッとするような暑い空気に驚いたものです。
 冷房のあまり効いていないような空港内で、韓国人の団体さんが入国審査を受ける様子を見ながら、厚物の上着から薄手の物に着替えます。機内では気が付きませんでしたが、パラオ人乗客も何人かいたようで、外国人とは別の審査所を通ってさっさと出ていきます。それに引き換え団体さんの方はなかなかはかどりません。トランクもバッグもいちいち開けて念入りにチェックを受けています。
 最後尾に並んでいた私たちの順番になり、タバコと果物を持っていないかと尋ねられ、持っていないと告げながらキャリーケースをカウンターに置いてチャックを開けようとすると、必要ないと身振り手振りで示し行っていいというそぶり。え? ほんとにいいの? そんな表情で無事通過。団体さんのチェックに疲れ雑になっているのかと思ったら、Tさん曰く「中国人や韓国人は禁止されているものを持ち込むことが多いから、念入りに調べられるけれど、日本人は信用されているから」と。そんなところにも戦前からの日本とパラオの結びつきが受け継がれているのかなと、妙に納得しました。あるいは支援活動でたびたびパラオを訪れているTさんの顔パス効果なのかも。
 ようやく空港の外に出ると、予約したホテルから迎えのマイクロバスが待っていました。運転手は旅行社の現地スタッフで、私たちがなかなか出てこないので、乗り遅れたかキャンセルかと心配していたそうです。バベルダオブ島南部にある空港から滞在先コロール島のホテルまで、街灯の少ない舗装の悪い道を40分ほど走って到着。
 ランドマークマリーナホテルではM君と同部屋で、荷物を置くとすぐに私は外に出てみることに。サンゴの島で入り組んだ湾に建つ小さなホテルですが、目の前の岸壁から浮桟橋に降りるとたくさんの小型船が係留されています。スキューバダイビング客に人気のホテルだとか。桟橋からのぞき込むと街灯に照らされた透明度の良い海中に魚が泳いでいるのが見えます。中でも40cmはありそうなサヨリが手の届きそうなところを悠々と泳いでいるのを見ると、釣り好きとしてはムズムズしてきます。
 桟橋を沖の方に移動すると、ホテルの陰に隠れていた異様に明るい星が見えてきました。明けの明星・金星です。日本で見る金星の何倍も明るく輝いています。この時期は月の見えない新月期ですが、満月の下では月明かりだけで新聞が読めた、と母が言っていたのを思い出します。
 とうとうパラオにやってきたと、その時ようやく実感しました。