南十字星を撮りたい

 ひょんなことから、戦前に母親が青春を過ごしたパラオに、亡くなってから15年の時を経て散骨に行ってきました。経緯については「なぜパラオに行くことになったのか」と、「そして遠くて近い国パラオへ」をご覧いただければ幸い。
 ここでは寝る間も惜しんで星空にレンズを向けた3日間をレポートします。

 1日目。
 夕食後少しの仮眠を取って、いよいよ三脚にカメラを載せてホテルの向かいにある防波堤を目指しGO! 頭上、天頂付近から西空に移動したオリオン座を見上げ、こんな高度に見えることに感動しながら撮影開始。冬の天の川もしっかり見えています。オリオンからおおいぬ座あたりをシグマのズームで17mm/F2.8、ISO800と設定して20秒露光でしばらく撮ってから、場所を移動し見上げる角度にあるカノープスを島影を前景に撮影。帰ってから気が付いたのですがカノープスの下、島影のすぐ上には大マゼラン星雲がかすかに写っていました。三脚固定でなく追尾撮影が可能だったら、露光を伸ばしてもっとはっきり写せていただろうと思うと残念でしたが、今回の旅の目的がこれではないので仕方ありません。
 撮影しながら空を眺めていると冬の天の川が途切れ、星の無い暗い空があるように見えます。どうやら低空に薄雲が湧いていて星を隠している様子。光害の無い暗い空だと雲の照り返しがないので雲は暗くて見えない、と聞いてはいましたが今回それを実感。ただし、近くのホテルやダイビングツアーの船着き場が近くにあって、その照明で真っ暗な場所とは言い難いのですが、上向きにそれほど光が漏れていないということでしょうか。空の透明度も高いように思います。
 ニセ十字までは撮影できたのですが、南側の低空の雲が居座ったままなので、南十字が昇るまで待つのをあきらめ、しばらく南国の星空を楽しんだあと戻りがけに宿泊ホテルを前景に西空に傾いたおうし座あたりを連写して初日の撮影を終了。
 2日目の夜は同行者の一人が自分も南十字星を見たいということで、午前3時に一緒に出掛ける約束をして3時間ほど仮眠ののちカメラを持って前日と同じ岸壁に移動。
 この夜は雲一つない快晴で、すでに南十字星も島影から姿を現していたので、撮影の傍らわずかな知識を総動員して星空案内をしました。南十字星やηカリーナ星雲、ケンタウルス座のαとβなど初めて見る南の星たち、見慣れたおおいぬ座、オリオン座、ふたご座にぎょしゃ座など。さらにカノープスや低い位置から北極星を指す北斗七星、高度が低すぎて木陰に隠れて見えない北極星など、見慣れた星や星座でもその位置が新鮮です。
 この夜はハプニングもありました。
 撮影を開始して間もなく、少し離れたところで犬が吠え出し、警備員らしい人影がこちらに懐中電灯を照らしてきたのです。
 パラオ語も英語もしゃべれないので、大きく身振り手振りで空を指さし、写真を撮るジェスチャーをしながら「フォト! フォト!」と呼びかけると、すぐに通じたのか「オーケー」と答え明かりを消してくれたので、無事撮影を続行できました。
 撮影を終えて帰る途中で、いかついおじさんから声をかけられ、たぶん「写真は撮れたか?」と言われたような気がして、さっきの警備員だと気付いたので、早速撮ったばかりの画像を見せることに。
 3日目。
 この日の夜は前日と打って変わって雲行きが怪しく、夜中に何度か外に出てみるものの雲間に星が見えても雲の移動が速く、写真を撮れるような状況ではありませんが、それでも雲が多いながらも撮影を強行していると、パトロールカーが巡回してきて職務質問? もちろん何を言ってるのかわからないまま、星を撮っているというジェスチャー。
 すると「ジャパニーズ?」と聞いてくるのでそうだと答えると、「オーケー」と言ってそのまま行ってしまいました。
 パラオは少し前までは夜間外出禁止令が出ていたようですが、現在はそれも解かれ治安が良くなっているようで、日本人に対して好感が持たれている国なので、星空を堪能するにはいいところだと実感した次第。
 小雨がパラつき出したので潔く諦めホテルに戻り、小刻みな仮眠を繰り返すうちに朝。目が覚めると雨が本降りになっていました。
 年金暮らしの貧乏老人が思い切って出かけたパラオへの旅。もしこの旅の話がなかったら、山天メンバーを誘って4月ごろに石垣島に南十字星を撮りに行きたいと話していましたが、今はもうその目的が達成されたので石垣島はもういいか(笑)。